ケンイシイはテクノをいかに変えたか

Youtubeやらニコニコ動画を覗く楽しみの一つが、過去の音楽をビデオクリップと共に掘り返して再評価できるところだ。
そんな中でも実に感慨深い作品がこれ。もう十年以上前の作品になるんだなあ。

Jelly Tones

Jelly Tones


好き嫌いはあるものの、日本のテクノシーンを語る上ではやはりケンイシイは外せない。
1995年にベルギーの名門テクノレーベル、R&Sレコードから発売されたケンイシイを代表するアルバムがこの「JERRY TONES」。その一曲目に入っているのがこのビデオクリップの曲「EXTRA」だ。
それまでのテクノは基本的にアンダーグラウンドの音楽だった。あくまでもダンスミュージックであり、クラブカルチャーという場所の音楽。黒人達の主張とか、ダンスへの渇望みたいなもんが基盤となっている音楽だったわけだ。当然ミュージッククリップなんてものは存在しないし、レコードというアナログメディアがシーンを作り出していたんだな。
そんな中、突如として現れたのがこのアルバム。そして初回限定版に付いていたこのビデオクリップ。そりゃあ衝撃的だろう。
ちょうどその頃は「AKIRA」や「攻殻機動隊」が世界から注目され始めたころだったわけで、このPVは見てもらえばわかる通りそんな日本製アニメの要素がこれぞとばかりに詰め込まれている。
ブレードランナー的な東洋風未来都市。グロテスクなアニメ表現にどこかレトロで泥臭い機械。それを操る少年たち。わざとらしいまでの要素要素の集合体がテクノのキックに呼応して美しく、残酷に変化していく。
しかもこの映像を作ったのが映画「AKIRA」の作画監督補佐、森本晃司のいるSTUDIO4℃。アニメのクオリティが高いのも当然だ。
たしかにテクノ+アニメという構図がそれまでなかったのも今考えると不思議だが、当時それに気づいたケンイシイはさすがと言いざるを得ない。
というのもこのケンイシイ、元はバリバリの広告マンなのだ。筑波大付属駒場から一橋、そして電通というエリートコースまっしぐらな彼。
異色の経歴だけどこれだけ市場を睨んだテクノアルバムを製作するのもそう考えるとどこか理にかなっている。
当然それまでのコアなテクノ好きはこんな広告どっぷりの洗脳手法に憤った。今でもケンイシイはテクノを駄目にした戦犯として槍玉にあがったりする。
しかし、このアルバムの楽曲は実に良く出来ていると僕は思う。電子音の持つ二面性、激しいリズムに透明感のあるシンセをうまく融合しているし、東洋的なトライバル感がその中に息づいている。
イントロの静けさから一気に持っていく中盤のダンストラック。ローランドの傑作シンセサイザー、JD-800の音が実に心地よい。
当時売れたのは確かに手法的な要素もあっただろうが、それ以上にこの楽曲の完成度は高いと僕は思う。
当時の僕は小学生だったけど、テレビで見たこの映像と音楽に恐怖と同時に憧れも感じた。10年たった今でもやっぱりカッコいい。
この曲と映像はこのあとの90年代後半の熱いテクノシーンの基礎になったと言えよう。
そして多くのテクノ好きを生み出したはずだと僕は思っている。