ヘッセの郷愁

中学校の教科書で、ヘルマン・ヘッセ「少年の日の思い出」を読んだ人は多いだろう。
主人公の少年が、友人であるエーミールのクジャクヤママユという蛾の標本を出来心で盗み、
発見されたあげく「そうか、つまり君はそういうやつだったんだな」と冷たくあしらわれるあの話。
ヘッセの作品を読んでいて感じることの一つに「共感」ってのがあると思う。
「少年の日の思い出」は実に子供の心をよく表している作品で、当時共感した人も多いんじゃないかな?
今回読んだヘッセのデビュー作、「郷愁(ペーター・カーメンチト)」もそういった「共感」のある作品だ。

郷愁―ペーター・カーメンチント (新潮文庫)

郷愁―ペーター・カーメンチント (新潮文庫)

アルプスの山村で生まれたペーター・カーメンチトは雄大な自然の中で成長する。
詩に目覚めた彼はやがて都会の大学に出てゆき、恋や友情、そして挫折という青春を送る。
その後、作家を志してやさぐれた生活を送るも、結局彼が最後にたどり着いたのは山育ちの心だった。
友人、恋人、親、故郷、夢、挫折。誰もが持ち得る青春の感情が主人公に重ねられる。
初期のヘッセの作品らしい、人生の郷愁を詩的に静かに訴えかけてくる作品だ。
何よりもヘッセの自然美を書き出す感性が素直に読者の胸を打つのだ。
外国文学を敬遠しがちな人への入門用としてはすごくいい小説だろうな。
逆に言うと骨太の文学を沢山読んできた人にとってはかなり甘っちょろい出来だ。
わざわざドイツ文学なんか引っ張りださんでも似たような青春の哀愁を書いた小説なんて山ほどある。
この頃のドイツは経済的にも精神的にも豊かだった。じゃなきゃ青春ロマンは書けねえよな。
このノスタルジックで王道的作品は、第一次大戦前ということを良く表しているってことだろう。
大戦後の彼の作品はヨーロッパで巻き起こった藝術運動の例に漏れず精神研究に向かって行く。
恥ずかしながら僕はまだこの大戦後の作品群に手を付けていないので、できるだけ早く読んでヘッセの変化を感じてみたいと思っている。