即興化する動画表現とSVM−1000

「DJ」と聞いてフツーの人が思い浮かべるであろうもの。
それはラジオのパーソナリティ、もしくはレコードをこするヘッドフォンをつけた兄ちゃん。
(航空自衛隊のF-15DJとかは一般人は思いつきません)
前者も後者もとりあえずは浸透している言葉である。


それでは「VJ」はどうだろうか?
恐らく知名度はまだまだ低いだろう。
ということでwikiで見てみると

DJが複数枚のレコードを組み合わせて音楽を作るように、クラブやディスコ、コンサート会場で音楽に合わせ、ビデオ映像等を流す者。
ライブで映像を組み合わせたり、リアルタイムで製作したり、あらかじめ作っておいた映像を流したり、その手法は様々。
最近はDVD、DVJ、PC等を用いたスタイルが一般的になりVJをビジュアルジョッキー(visual jockey)と解釈することもある。

とある。
このように「VJ」はつまるところ裏方であり、それも限られた場所での表現者であった。
「あった」のである。


2000年ごろから、VJに二つの意味で変化が訪れる。
一つは機材という面での変化。
コンピューターの高速化、大容量化、そして小型化により、より空間的でアーティスティックな表現が可能になる。
それと同時にパイオニアのDVDの映像をスクラッチすることができるDVJ-X1、
より感覚的に映像効果を行えるKORGKAOSS PAD entrancerやRolandのCG-8などハード系も充実してくる。


もう一つはカリスマ的アーティストの登場。
いまだにVJ界のトップランナーであると同時に様々なメディアで表現活動を行う宇川直宏がその代表である。
他にもデバイスガールズやmotor driveなどそれぞれが上記のような機材を使って
個性的なVJプレイを行うようになったのだ。


この変化を経てVJはクラブやライブに無くてはならない存在となった。
その行為自体が表現であり、世界的にもアーティストとしての認識が高まっていった。


そしてまた、新たな変化が起ころうとしている。
今回パイオニアが発表した新しいミキサー、SVM-1000である。

http://pioneer.jp/cdj/products/sound_vision_mixer/svm1000.html


元来音楽担当のDJと映像担当のVJは別々の仕事を行ってきた。
お互いの連携によって音と映像の空間が成り立っていたわけだ。
しかしこのSVM-1000はその二つを統合してミキシングできる。
つまり、音と映像が同時に制御できるのだ。
これは単純に言ってしまえばDJとVJの統合ということにも繋がってくる。


果たしてその両刀使いなプレイをDJやVJに要求できるのかと言われると難しいところではある。
DJは音楽の選曲と繋ぎが生命だし、VJもそれを見ながら場の空気を読み映像を作り出す。
仮にできたとしてもそれがオーディエンスの高揚に繋がらなければ無意味なのだ。


それでもなお、この機材が意義深いのはその独創性である。
この機材を実際にクラブで、ライブで、劇場で、自宅で使う様々な人々。
現場で感覚を磨いた彼らはきっと新たなVJスタイルを編み出して行くだろう。
かつての機材がそうだったように、そこからフィードバックした新たな表現への要求が新しい機材を産む。
もしかすると我々の思いもよらぬ所でVJが活躍し始めるかもしれないのだ。
動画における編集という行為をそのままメインにしているから様々な解釈が可能だ。
「自動筆記」ならぬ「自動動画編集」なんて表現が登場するかも・・・。


ギターを始めるように、ドラムを始めるように、DJを始めるようにVJを始める時代が来るかもしれない。
まだ新しいからこそ、自由度が高い。
VJアーティストのこれからはきっと面白いはずだ。